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歯っとした

子供の歯の問題の前に、寄り道。
歯っと気が付いたこと。


今年の芥川賞の小説「きことわ」
主人公は葉山に住む娘が一人いる40歳の主婦。
子供のころ、母がアルバイトで管理している別荘に夏休みになると東京から母子が避暑に来ていて、毎年その別荘に遊びに行っていた。その7つ年下の女の子とは生まれたときから知っていて大の仲良しだったが、母親が死んで避暑に来ることが無くなったために高1の夏以来会っていない。
別荘の取り壊しのために整理にくるその子と、母の代わりにその手伝いに行く主人公が25年ぶりに再会する話。
テーマは、時間と記憶だろう。
真ん中ぐらいに、年老いた母親がデパートの食堂で唐突に、昔いい人がいたと不倫をしていたことを主人公である娘に告げるところがある。外出する口実のために、別荘の管理をしていた。さらっとした告白。
その後母親は、帰り際に何事も無かったかのように、歯ざわりの良いものを買って帰りたいと浅漬けとおひたしを地下の食品売り場に買いに行く。さりげない記述。

なるほど。ここで、歯ざわりの良いものか!浅漬けか!
おひたしも確かに歯ざわりが独特で、ひんやりしている。
母親は何十年も隠していた秘密を吐き出して、胸のつかえが取れるとともに、ああ、ついに言ってしまったという思いもあるだろう。
歯ざわりの良いものを食べたい。
安堵とも後悔ともつかない定まらない心持と、しゃきっと歯切れのよい歯ざわりを求める感覚。
よい取り合わせだ。作家は26歳。若いのにうまいな~と舌を巻いた。
まことに歯と心は結びついている。それが、うまいエピソードを作り出している。


長年歯医者をやっていながら、「歯ざわりの良いもの」なんていう言葉が浮かんだことが無かった。
よく、歯に詰め物をした後に、舌ざわりはどうですか?と聞いたりするけれど。
素晴らしいアイテムをゲットした!歯医者にはこのような繊細な感受性こそが大切だろう。
そう考えていて、歯っとした。

総入れ歯の患者さんは、漬物、漬物という。
僕は、漬物が総入れ歯の性能の一つの基準で、それが食べられればほぼ日常の食事に不自由しないからだろうと思っていたが、そればかりじゃないのかもしれないなとひらめいた。

歯ざわりがよみがえるのじゃないか?

患者さんは、歯が痛くなると同側の過去に痛くなったことのある治療済みの歯を痛いと誤認することが多い。神経の記憶はいつまでも残っているようだ。
そう考えると、思い当たる。部分入れ歯の患者さんは、相当大きな義歯でもあまり漬物とは言わない。
まあ、自分の歯が少しでもあれば咬めるからだろうが。
でも、総入れ歯の患者さんは必ず漬物が大好きだと言う。漬物がおいしく食べることが出来てうれしかったなどと、咬めないときばかりじゃなくてこだわりを持っているようだ。
歯がちゃんと有る僕は漬物はあれば食べるけど、多くの食べ物の中の一つで、特別な思いは無い。
1本でも歯があれば、部分入れ歯の患者さんには歯ざわりがある。
総入れ歯になって無くなる味覚が歯ざわりだ。歯が無いのだから。
でも、神経の記憶が粘膜を介してよみがえるのじゃないか。
ただ、その感覚は歯根膜が無いのだから、かすかなものだろうから、そのように歯ざわりを感じる典型的な食べ物を食べたい欲求が強くなるのではないか。
「失われた時(歯ざわりの記憶)を求めて」 なにやら、小説のテーマとつながる。

自分で漬けて、漬物自慢の人も多い。漬物へのこだわりは、そちらの要素のほうが強いとは思う。
でも、もしも歯ざわりの記憶がよみがえるということがあるなら、無くなった味覚を取り戻せるわけだ。
漬物をおいしく食べられるということは、何にもまして総入れ歯の極めて大切な条件だという気がしてきた。
でも、治療室で漬物を試食してもらう勇気は無いな~
恥をかきそうで怖い。やはり、家に帰ってから、そっと試してもらうのが無難だ。

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入れ歯とのくらし | コメント(0) | トラックバック(0) | 2011/03/07 00:07
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