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神父さんの困惑

もう何十年も前に見たヒッチコック劇場のラストの神父さんの顔が、今でも時々浮かんでくる。
はるか昔のテレビドラマなんてのは、ほぼ忘れているものだが、奇妙にありありと思い出す。
記憶というものは、ただ覚えているのではなくて、実は後で脳が作り直しているらしい。
何か僕の性格の深部に働きかけるドラマだったのだろう。


ある街の小さな古い教会に、いかにも間抜けでさえない表情の中年男が懺悔に来た。
神父は顔なじみだ。またお前か!今度は何だ?
実は、その男はいつも何か小さな問題を引き起こしては、すでに身内に見放されているので、神父が代わりに見受け人になったりして何かと面倒を見てやっていた。

神父さん、おらは悪いことだとは思うけど、どうしても自分が止められねえ。先に、神様に懺悔して許してもらいたい。

どうも、午後の競馬の情報を偶然知ってしまったらしい。
どんな情報だったかは忘れてしまったが、1着2着が確定したような銀行レースで、しかも大穴らしい。
それに全財産を突っ込むという。とは言っても、たかが知れてるだろうが。


神父は、それは良くないことだ。思いとどまれ。と説得するが、何とか許してくれと泣き付かれる。
八百長のようなものはなくて、何かちょっとした情報らしくて、厳密に犯罪と言えるのかどうか判らないような、言わば良心の問題に近い話だったと思う。
神父も、このさえない不運を背負ったような男の顔を見ているうちに、それじゃあ一緒に神に許しを請おう。と言って二人で祈る。

顔中うれしさでいっぱいになって教会を出ようとして、男はふと気が付いて戻ってきて言う。

神父さん。おらのために祈ってくれてほんとにありがたい。
この教会もひどく傷んでしまって、直すお金の寄付がなかなか集まらないのが気の毒でならねえ。
神父さん。おらに集まった寄付を預けてくれねえか?
絶対確実な銀行レースだ。これで、教会を修繕してきれいにできる。

神父は、なんと!それに乗ってしまう。

男が帰った後、神父は茫然と十字架の前に立っていたが、レースが始まる頃になってハッと我に返って激しく後悔する。
そうだろうね~当然だよ。
そして、自分の犯した罪を神に詫びて、神様、私に罰をお与えください。とその馬が負けるように必死で祈った。


夕方、神に祈っていた神父の前に、ふらふらと男が現れた。

神父さ~ん。信じらんねえ。
おらの馬が、快調に走っていたのにゴールの手前で急に勢いが無くなって鼻差で負けてしまった~

どうも、その馬に急ブレーキが掛かったのは、祈りにいよいよ気合が入りだした瞬間のようだ。
神父は、願いを聞いてくれた神に感謝する。祈りが天に届いた。

男は、あ~また一文無しになっちゃった。神罰が下ったのかな~
せっかく神父さんも祈ってくれたのにな~
でも、もともとおらが悪いんだからしかたがないさ。そう言った後、神父に厚い札束を渡す。
これは、神父さんの分だ。もしものことがあったら申し訳ないから、おらのように欲張らないで1,2着がどちらでもいい馬券を買ったので、神父さんの分は大丈夫だった。
これで、教会を直してくれ。と言って、よろよろと出ていった。

両手に札束を持って、何とも言えない顔で天を仰ぎながら茫然と立ち尽くす神父。


あの顔が、ありありと浮かぶ。
僕は、神父の困惑の表情に引かれたのだろうか?
それとも、あのさえない要領の悪い男に自分を重ねてしまったのだろうか?
いや、僕はあれほどひどく要領が悪いわけではないし、彼に比べると全くずるい。

いま全体を思い出しながら筋書を書いてみると、あの神父も相当に天然だよ。
こんなばかばかしい話を何十年も反芻しているんだから、きっと僕も神父と同類なんだろう。


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あれやこれや | コメント(0) | トラックバック(0) | 2014/03/19 00:00
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