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顎位は、どのようにして規定されてきたのか?

これまで、総義歯の咬合採得のベストな方法を模索してきた。
その中で、中心位という考え方と、筋肉位という考え方が対立しているように見られる。

まず、経験的に前方位で採得してしまって失敗するケースが圧倒的なので、総義歯の咬合採得は一番後ろに定める方がいいと誰もが考えている。
ところが、後ろに定めたはずなのに前で咬まれてしまって、騙された~もっと後ろだった!
ということがよくある。
それで、少し後ろに力を入れてみると、今度は「あごを押し込まれている感覚で苦しいし、噛むときも少し前で咬んでしまって歯の1点だけが当たるから、入れ歯が動揺してあちこちが当たって痛い。
このような現象は、ナソロジーの中心位と、その後それに疑問を呈する先生やグループとの対立関係と一緒だ。
総義歯は、すべての問題を包含している。
そして、試行錯誤した結果、総義歯に関しては現在は筋肉位に収まっているのではないか?
多くの総義歯の大家が薦めるのは、旧義歯の改造か治療用義歯を作ってからの2回法で、それは取りも直さず筋肉位を定めて、それをコピーするということだからだ。

しかし、どちらの立場を取るにしてもそれは、臨床の結果から逆算して考えられる一つの基準を決めたに過ぎない。
それは、神が創造したことは間違いないという風に世界を規定することを選択して、エホバかアラーかを争っているようなものだ。
つまり、証明不能な不可知の部分を、どちらが現実と矛盾しないかを争っているわけで、宗派間の争いであって科学ではない。

科学的に何か一つの基準を決めるとしたならば、もう一つ上位の基準が必要だ。
顎口腔系の中の、関節と筋という2つの要素だけを取り出して、エホバかアラーかと言っている。
残念ながら、顎口腔系は関節と筋だけで成り立っているわけでは無いし、さらに、顎口腔系は全身の中の一部だ。
だから、どちらの神を信じるのか?と迫ること自体がナンセンスなのだ。

そうはいっても、他に知恵が無かったので、仮定を置くしかなかったのだ。
しかし、今はもうそれは過去の問題になった。

 顎位を定めるのではなく、頭位を定める。

これが、咬合採得の正しい考え方だ。
入れ歯とのくらし | コメント(0) | トラックバック(0) | 2015/08/11 00:00

咬合採得に関与するものは?

僕のこれまでの説明で、神経筋機構を咬合採得に持ち出すことに違和感を感じないだろうか?
習慣性の顎位を排除して、神経筋機構に惑わされずに関節頭と窩の機械的な関係を採得しようとするのが、ナソロジーなどの咬合採得の目的だったはずだ。
例えば、僕が総義歯の咬合採得をするときには、通常のユニットのプリセットされた患者座位で普通にヘッドレストに頭を乗せた少し上向きの頭位で、オトガイに親指と人差し指を添えて行う。
その時に、あごの力を抜いてもらうと、何の抵抗もなくクラクラっと指で上下させることが出来る状態になる。
その状態を指の感触で確かめながら、軽く閉じてもらう。
すると、何か関節頭と窩がカチッと納まった感触がある。
たぶん、多くの先生がこれを中心位の感触と感じているかもしれない。
神経筋機構の影響を排除して、関節窩の中心に関節頭を定める感じだ。
咬合器のコンダイルのような機械的なイメージだ。

僕も、ずっとそのようなイメージで咬合採得していたが、丸山先生の顎位の傾きの制御法に出会ってから疑問を持つようになった。
ほぼ変わらない位置でも、傾きが違う顎位が有る。
そして、そのほんの微妙な違いで、症状は天と地の開きがある。
ナソロジーの先生なら、それはきちんと中心位に収まってないからで、水平位でドーソン法で採らなければ駄目だと言うかもしれない。
しかし、丸山先生の健康顎位は中心位とは全く違うことは明らかだ。

それに、僕がロウ提で咬合採得するときも、試適時にリマウントバイトを採るときも、全く同じ方法なのに顎位は異なる。
旧義歯によってだまされ方が違うし、試適時に採るリマウントバイトも配列のスウィング干渉の程度で異なる。
しかし、カチッと納まった感触は変わらなかった。
あの感触は、いったい何だったのだろう?


もう一つ、旧義歯は、どうもすっかりゆるくなってしまったとかいう動機で作り直すわけだが、新義歯が失敗すると即座に元の鞘に収まって、あ~時間とお金を損したけれどやはり、いろいろ不満が有ってもなじみの相手の方がしっくりするという選択をする患者さんが多い。
中心位なんて関係なくて、相当ずれていてもなじみの顎位が良いということだろう。
これは、筋肉位でしょう。ホントは違うと思うが、一応そうしておく。

ところが、新義歯にそのなじみの顎位を与えると大失敗する。
というよりも、普通に咬合採得すると、大概は失敗する。
もとえ、咬合高径を変えなければ失敗しない。
高径を上げたときだけ失敗するのだ。
すると、もう一つの知られていなかった要因が浮かびあがってくる。
それは、頭位だ。高径を上げると、下顎のヤジロベエが働いて頭位が変わる。
あごが前に出たうつむいた頭位から、あごを引いた上を向いた頭位に変わる。
これが、旧義歯の筋肉位ではダメな理由で、一生懸命中心位に定めようとしても出来ない理由だ。

咬合採得とは煎じ詰めると、頭位を定める行為なわけだ。
だから、僕は高径を回復して、少し上を向いた自然な頭位で咬合採得する。
その頭位の下で定まった顎位は、うつむき気味になって首がこって、肩がこって、膝を痛める老化の問題を緩和することが出来る。
これが、望ましい総義歯の咬合採得だろう。
入れ歯とのくらし | コメント(1) | トラックバック(0) | 2015/08/06 00:00

印象の大切さ

僕は、もう30年前から、総義歯はティッシュコンディショナーで印象している。
あれほど便利な材料は無いと思っていたので、みんなそれで印象しているものと思っていた。
ところが、札幌の仲間内の講演の打上げ懇親会では、ほとんどその材料で印象している先生は居ないようだった。
聞いてみると、固まるのに時間がかかるのでどうも?とかいう話だった。
僕は、スタッフに印象してもらうから、時間がかかっても関係ないというと、え!そのスタッフすごいですね。義歯の形態が分かるんですね?という。
どうも、ティッシュコンディショナーの便利さが解ってない先生が多いようだ。
何回でもやり直し出来るのが、最大の長所なのだ。
スタッフが採ってきた印象を見て、ここがダメ、そこがダメと言って指示するだけだ。
ダメなところを、はさみで切り取って粘土みたいに張り付けてやり直せばいいだけなのだ。
全く継ぎ目が無く採れるし、ほとんど無圧で採れるから、フラビーガムでも特別な術式は必要ない。
最後に僕がその印象に修正を加えて仕上げるのだから、法的にも問題は無い。
それに、蔵重先生のシステムは、適正な咬合高径の閉口状態で印象するので、普通に開口状態で印象するのに比べてより生理的だ。
だから、完璧な印象が採れる。

しかし、盲点があって、筋形成の口の動かし方が足りないと全体的にはきれいなのだが少し長い印象が採れることがある。
これは、なかなか見分けが難しい。
それで、この前の患者さんは失敗したのだ。
義歯のDTT

もう一度、このスライドを示す。僕が加えた義歯だけに使うDTTのフィットチェッカーがそのヒントになる。
不適合な義歯を入れていると、肩や首がこってたまらない。
それに、ちょっと適合検査材のフィットチェッカーを入れるとたちまちスカッとこりが取れる。
全身写真を撮ったら姿勢が改善しているし、フットビューという足裏重心圧測定器でも真ん中に重心が乗ってくる。
僕は、これをシナプス化と言っている。
完全に一体化することによって、プラスチックの塊にたましいが吹き込まれて、体の一部になる。

この前の失敗のように床縁が長すぎて違和感があったり、浮き上がったり、ふらふらして指で押さえて咬合採得しなければいけないようでは、そもそも顎位を定める神経筋機構が正常に働かない。
だから、同じように咬合採得しているのだが、1mmほど前方位で採れたり、逆にそれを恐れて顎を押し込んでしまって苦しい顎位になる。
このようなエラーが一番合わないことになる。
それは、旧義歯の顎位から生理重力下顎位へのスウィングの軌跡に無い顎位だから、どこで咬んでも痛くてたまらない、どうしょうもない状態になる。
これが、テクニックエラーそのものだ。
総義歯の印象は、上顎はほぼどうでもいいが、下顎はピッタリ吸着するか、小さな入れ歯が好きなら2枚のガラスの間に水を垂らした時に引っ張っても決して引きはがせないように接着するか、そのどちらかでないと、シナプス化しないのでバイトが上手く採れない。
接着印象は、昔あった石膏印象とか、大変なテクニックを必要とする。
蔵重先生のJKリニアテクニックは、もっとも簡便な吸着印象だ。
僕は、この方法を大学の総義歯教育のスタンダードにすべきだと思う。

もう一つの方法は、咬座印象だ。
僕は、これをあまりやらないが、試適してみたら印象が悪くて前歯部の床縁が少し短かったとかの時に、たまに印象の修正のために咬座印象することがある。
すると、やはりほとんど咬合調整が必要ないほど合う。
リベースしたと同じことになるわけで、これもいい方法だ。
バイトの位置さえ正しければ、傾きが床と粘膜の間の印象材で修正されることになる。
問題はその前で、位置を間違えていたら元も子もないということだろう。
咬合採得をスウィング干渉する平らなロウ提でするわけだから、残念ながら同じ懸念はあるわけだ。
それに、その咬合採得する基礎床をスナップ印象で作るわけだから、上に挙げた通りの失敗が起きやすい。

だからやはり、スウィングキーパーDの方式が一番確実だと思われる。
入れ歯とのくらし | コメント(0) | トラックバック(0) | 2015/07/31 00:00

ローリング偏位とピッチング偏位

みなさん、分かりましたか?
僕もついこの前まで、このような微妙なバイトの狂いというのは、テクニックエラーで仕方がないものだと思っていた。
印象材の材料的問題とか、フラビーガムの加圧変形とか、模型のアンダーカットのブロックアウトの過剰による基礎床の回転だとか、ロウ提の軟化のアンバランスとか、よく言われるレジンの重合変形だとか。
そのような小さな狂いの集積で、顎位は合っているんだが咬合紙の抜けがそろわなくて、全体が咬むようになるにはある程度の調整が必要なのだろうと思っていた。
局部義歯では、残存歯と粘膜との被圧偏位量の問題があるので、今でもそれは変わらない。
しかし、顎位を大きく間違えて、人工歯の付け替えをした後はピッタリ合って、咬合調整は必要なかった。
だから、レジンの重合収縮のようなラボサイドのミスではない。ラボは、もう一度咬合器に付けて咬合調整してくるから、入れ歯を手に持って合わせてみて、カタカタするようなことは皆無だ。
僕のテクニックエラーだと思っていた。

スウィングキーパーDの術式2
  この図は、日の出の先生が作って、僕たちの本に載せたものだ。

丸山先生の顎位のローリング偏位とピッチング偏位の発見と、その臨床的制御法の確立が、その後のあごろべえ先生の爆発的な現象の発見と治療法の創造につながった。
このあごの骨の模型を吊り下げた写真のように、顎位には、位置の他に傾きという2つの要素がある。
この、ローリング偏位とピッチング偏位という概念は、歯科界ではほとんど知られていないのではないか?
矯正のセファロ分析のスケレタルパターンのハイアングル・ローアングルの分類ぐらいで、骨格性だけの問題とされている。
それを、丸山先生は顎偏位として捉えなおして、その偏位をわずかに修正する術式を確立した。
そのほんのわずかな修正によって、患者さんの全身症状は大きく改善したのだった。
「丸山咬合療法」というのは、このローリング偏位とピッチング偏位の微修正に他ならなかった。

その微修正は、つま楊枝程度のスティックを診断に基づいて位置を工夫して咬むだけで簡単にその場で出来る。
その瞬間に、ほとんどの症状は解消した。しかし、スティックを外すと、即座に魔法は解けて元の木阿弥になる。
その後、MPAというスプリントで、3~4か月その顎位を保つことによって、その顎位を筋肉位として定めて、その筋肉位に基づいて補綴するというのが、治療法だった。
この治療法は、よく考えてみると、現在義歯の大家と言われている先生たちが推奨する術式と類似性がある。
治療用義歯を作ったり旧義歯を改造したりして、望ましい顎位の入れ歯を試行錯誤してまず入れてみる。
そして、試行錯誤してごちゃごちゃと汚らしくなったものを、新しくかみ合わせを採って作り直したら、完璧な顎位の入れ歯が入るということだ。

ここで、ただスティックを咬むだけで簡単に修正できる顎位が、なぜ3~4か月それを保つスプリントを入れなければ筋肉位として定着しないのかを考えてみると、顎位だけ変えても、歯が昔の顎位に調和して並んでいるのでスウィング干渉は直らないということだからだ。
そう考えてみると、顎位はスウィング干渉が無ければ、自然にいい位置に定まる。
以前書いたことがあるが、総義歯を無くした患者さんは、僕の経験では100%無調整に近く入る。スウィング干渉が無いからだろう。
治療用義歯が必要なのは、ロウ提そのものがスウィング干渉の塊なので、旧義歯の顎位の幽霊から逃れられないからだ。
その顎位とは、位置だけじゃなくて、ローリング偏位とピッチング偏位も含む。

スウィング現象の発見というのは煎じ詰めると、顎位は結果で、スウィング干渉が原因だという発見だった。
だから、スウィング干渉が全くない配列で仮床試適すると、例え旧義歯に誘導された顎位で咬合採得されていた幽霊が取りついている顎位であっても、それはスウィングの軌跡の中にあるのだから、リマウントバイトを採るときには自然に生理重力下顎位方向に修正される。
それは、位置だけでなく、傾きも修正されると思われる。だから、調整不要になるのだろう。
つまり、小さな誤差の積み重ねで微妙にずれていて、そのために調整が必要なのだと思っていたのは実は違っていて、ローリング偏位とピッチング偏位が残っていたわけなのだ。
総義歯は究極のスプリントだから、スウィング干渉が無い適切な顎位ならば、入れた瞬間から筋肉位は修正されて、旧義歯の幽霊は成仏して出ていってしまうことになるというわけだ。


かっしー先生の報告は、すごいことを示唆していますね。
僕は、総義歯の配列を技工士が改良してくれた結果を何か月か考えて、それを書いているわけだから、ブリッジの咬合調整までは思いいたらず、咬合調整後にスウィング干渉を調整していた。
言われてみると確かにそんな気がする。先に、スウィング干渉を調整すべきだ。
バイトを採るときには支台歯形成してからだから、スウィング干渉は無い状態で採られている。
出来たブリッジのスウィング干渉で顎位がローリング偏位とピッチング偏位して高くなっていることは十分あり得る。
とすれば、恐ろしいことだ。
僕も、これからはそうしてみます。
入れ歯とのくらし | コメント(0) | トラックバック(0) | 2015/07/26 00:00

ロウ提で正確なバイトを採ることは出来ない

みなさん。僕が何も術式を変えていないのに、急に上手くなった理由を考えてみましたか?
変わったのは配列だけ。技工士が、僕たちの本を全部読んでくれて、それを配列に生かしてくれた。
スピーとウイルソンのカーブを強く付けてくれて、それまでは咬合調整完了後にスウィング干渉の調整が必要だったのが、スウィング干渉が無い配列になった。
そのときから、バイトもぴったりになって、咬合調整そのものがいらなくなった。
これは、僕が意図したわけでは無く、他力で実現した幸運だった。
その理由を考えてみた。

スウィングキーパーDの術式1

また、あごろべえ先生の図を使わせてもらう。
僕たちは、先人がいろいろ工夫して確立した術式を教わって、それを当然のこととして、ことさらに術式の意図とか欠点などを考えたりしない。
スピーとウイルソンが強く付いて、全くスウィング干渉しない配列でリマウントバイトを採ったら、完璧に正確だった。
その理由を考えてみると、ロウ提にはスピーもウイルソンもない。真っ平な平面だから、顎位がわずかでも変わるとスウィング干渉してしまうはずだ。
顎位は、スウィング干渉によって定まっているとも言える。
たとえば、よくある不正咬合に、側切歯のクロスバイトがあるが、あれこそまさに強烈なスウィング干渉だから、その歯を抜いたりすると、スッと顎位が変わる。規制が無くなるからで、その瞬間に肩こりや肩甲骨のあたりの痛みが解消する。
真っ平らで、顎位が変わればスウィング干渉するロウ提で咬合採得すると、旧義歯のスウィング干渉やキーパーロスした筋肉位から逃れられない。
たとえ、十分にロウ提を軟化しても、無駄だろう。その前の、ロウ提を試適しているときに、神経筋機構がその顎位にアジャストしてしまう。

 ロウ提には、旧義歯の幽霊が取りついている。

僕が昔総義歯のバイトで苦労していたころを思い出すと、入れ歯が壊れたり、無くしてしまって作り直す時や、局部義歯の残存歯がダメになって総義歯を作る時などは、いつも簡単に入る。
古い、10年も20年も使って、顔がクシャっとなっているような低い入れ歯を作り直すときに限って失敗した。
新義歯が出来て、入れたとたんに5mmも後ろで咬まれて、あ~ということになる。
それで、リマウントバイトを採って仕上げることにしたが、それでもたまに騙された。
今考えてみると、臼歯の配列が昔は直線的だった。それでは、配列した義歯を試適するときにスウィング干渉していたはずだ。
配列にスピーとウイルソンを付けることを煩く指示するようになって、だんだん騙されなくなってきた。
それでも、顎位は合っているのだが、全体的に右が少し高いとか、右後ろと左前が高いとか、全体に前の方が少し高いというようなことがあって、ある程度その調整が必要だった。
それが必要なくなったのが今回で、ホントに驚いたわけだ。
今度は、それがなぜかを考えてみてください。

入れ歯とのくらし | コメント(3) | トラックバック(0) | 2015/07/20 00:00
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